サラリーマン、喫茶店開業をめざす

小説・エッセイに出てきたあの料理を食べる、旧「小説家食堂」運営。2020年までに喫茶店店主をめざします!

レッドアイ(吉行淳之介『小道具たちの風景』)

“ところで、私のことになるが、悪い酒からスタートして、長く生きているうちに、あちこちが故障して、いまではビールとトマトジュースのカクテルを飲んでいる有様だ。”(吉行淳之介『やややのはなし』の「小道具たちの風景」より)

レッドアイ(吉行淳之介『小道具たちの風景』

“レッドアイ→酒飲みの反感をそそるための小道具→喧嘩→快感。”となるので、喧嘩に自信があって、それを趣味にしている方であればゴールデン街でどうぞ、とのこと。今はそんなことはないと思います。

 

第三の新人と呼ばれ、『驟雨』で第31回芥川賞を受賞した吉行淳之介(1924-1994)のエッセイから。
妹は女優の吉行和子、母は朝の連続テレビ小説『あぐり』のヒロインにもなった吉行あぐり、父はダダイスト詩人だった吉行エイスケという多才な一家です。エイスケは狂言師・野村萬斎が演じて話題になりました。

淳之介さんは、妹の和子さんもそうですが、対談やエッセイの名手で時代を軽妙に切り取った小品を文庫で楽しむことができます。『やややのはなし』もそのひとつで、吉行さんの麻雀仲間、色川さんのエッセイで紹介した梅むらの豆かんも登場します。

 

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レッドアイはアメリカで二日酔いのときの飲み物として最近流行していると紹介。但し、“新宿ゴールデン街のように、荒っぽい酒のみの集まっているところで飲まないように”とも記している。
カクテルとしてすっかり市民権を得ている今では想像できない話ですが、当時は色味(サーモンピンク)のせいか、酒飲みの反感を買う飲み物だったようです。

 

RECIPE
冷えたビール・・・・・・・飲みたい量
冷えたトマトジュース・・・ビールと同量

 

HOW TO COOK
トマトジュースをグラスに注ぎ、同量のビールを注いで軽くかき混ぜる。

 

POINT
お好みでレモン汁を垂らすとスッキリした味わいに。

 

P+D BOOKS やややのはなし

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NHK連続テレビ小説 あぐり・総集編DVD-BOX

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梅むら・豆かん(色川武大『徹夜交歓』)

“豆カンはカンテンと赤豌豆だけのものに黒蜜をかけて食べる。あっさりしていて初夏のもの。酒のあとにもいい。”(色川武大『喰いたい放題』の「徹夜交歓」より)

梅むら・豆かん(色川武大『徹夜交歓』)

浅草・梅むらの店構え。

 

ギャンブル小説で有名な色川武大(1929-1989)のエッセイから。読みは「いろかわ たけひろ」です。色川さんが概略は以前の投稿記事をぜひご覧いただければ幸いです。

 

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色川さんの『喰いたい放題』というエッセイは、豪快な食への執着がみなぎる快作で、食べたもの、ふと浮かんだ食べたいものを書き出して、その変遷、こってりに傾いたりあっさりに傾いたりに唸る描写なんかがあったりします。

冒頭の一節はそのひとつで、朝食に食べたものとして「豆かん(浅草“梅むら”のもの)」と記してあり、豆かんは梅むらが一番と書かれています。

 

梅むらは、色川さん、安川章太郎、吉行淳之介、井上ひさしなどの作家のエッセイでその名がのぼり、最近では孤独のグルメでも取り上げられました。
浅草のお店はとらふぐや蕎麦などの東京風の割烹を食べさせてくれる道の脇に所在しています。看板こそ目立ちませんが、近くまで行けば平日でも列を作る人がいるのできっと分かります。列に並んでいるのはお店で食べる人で、持ち帰りであれば行列に並ばずにお店にひょいと顔を出して注文すれば5分とかからず出てきます。

 

梅むら・豆かん(色川武大『徹夜交歓』)

持ち帰り用メニュー。

梅むら・豆かん(色川武大『徹夜交歓』)

持ち帰り用豆かん。黒蜜付きです。

梅むら・豆かん(色川武大『徹夜交歓』)

色川さんの大好物、豆かん。他店のと比べてすっきりした甘さで豆に弾力があるように思います。お酒の後にも合う、毎週食べたい飽きのこない味。

 

喰いたい放題 (光文社文庫)

喰いたい放題 (光文社文庫)

梅むら

目玉焼(伊丹十三『目玉焼の正しい食べ方』)

“目玉焼というのはどうも食べにくい料理である。正式にはどうやって食べるものなのか。こうだ、という自信のある人にかつてお目にかかったことがない。”(伊丹十三『女たちよ!』の「目玉焼の正しい食べ方」より)

目玉焼(伊丹十三『目玉焼の正しい食べ方』)

朝食の定番、目玉焼。

 

映画監督、俳優、エッセイストと多彩な才能を持つ伊丹十三(1933-1997)のエッセイから。映画『タンポポ』で、ご存じ、たいめいけんのたんぽぽオムライス(チキンライスの上に、オムレツにナイフを横に1本入れて半熟卵をふかふかに広げる)はブームになりました。


たんぽぽ すごく美味しそうなオムライス作り

 

そんな卵と縁のある伊丹さんの目玉焼のエッセイ。旅先なんかで人目のある状態で朝食をとるときに思い出します。

 

伊丹さんが最初にあげたどう考えても正しくなさそうな食べ方として、白身をどんどん切り取って、丸く残った黄身だけを最後にすくう食べ方。“子供がおいしいものを一番最後に食べる、あの感じになってしまう。”と伊丹さん。
その逆ならどうか。皿に口を近づけて、真ん中の黄身をぺろりと最初にすいとってしまう伊丹さんの友人の食べ方を紹介。人前では問題があると、これも正しくないと切り捨てています。

 

目玉焼(伊丹十三『目玉焼の正しい食べ方』)

白身をどんどん切り取って、丸く残った黄身だけを最後にすくう食べ方。私は家ではこの食べ方です。

 

残る方法として、大事な黄身を、涙をのんで壊してしまうやり方をあげていますが、これなら黄身が白身のソース代わりになるので一番あやしくなさそうです。が、食べ終わった皿が黄身だらけになって見苦しく、パンか何かで拭き取りたくなってしまう、とのことで、やはり完全な方法ではないだろうと記されています。確かに、和朝食の目玉焼にいたっては拭き取りも叶いません。

目玉焼(伊丹十三『目玉焼の正しい食べ方』)

大事な黄身を、涙をのんで壊してしまうやり方。私は人前ではこの食べ方です。

 

では、伊丹さんはどうやって目玉焼を食べていたのか。インテリ臭い方法とご自身でおっしゃっていますが、上述したような目玉焼の食べ方を“あれはやだねぇ”としゃべりながら、“ホラ、こんな具合!”と実演してそのままパクリと食べていらしたそうです。

 

女たちよ! (新潮文庫)

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タンポポ<Blu-ray>

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左は若き日の渡辺謙さん。

富士屋ホテルのアイス・クリーム(村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』)

“僕らは音楽を聴きながらドライブし、海岸に寝転んでぼんやり雲を眺めたり、富士屋ホテルでアイス・クリームを食べながら午後の時間を過ごし、一日また一日と月日が過ぎていくのを眺めていた。”(村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』より)

富士屋ホテルのアイス・クリーム(村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』)

箱根・富士屋ホテルのティーラウンジのアイス・クリーム ¥620 サービス料10%込・税抜。バニラ、抹茶、チョコレートの3種類がある。写真はバニラ。銀製のアイス・クリームカップとスプーンがよく冷えていて、口にあたると心地良い。富士屋ホテルが経営する仙谷原のゴルフ場に併設されているファミリー層向けレストラン、ウィステリアでも食べることができます。


村上春樹の小説から。作中の「僕」は、先の記事で紹介した『風の歌を聴け』でコンビーフのサンドイッチを食べていた主人公と同一人物。『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』の主人公とも同一人物で、四部作と扱われることもあります。
書評は他に譲るとして、本作が一番(と言っても数えたことはないのですが)、春樹さんの小説の中で食い道楽しているように思います。今後、ブログでコツコツと記事にできればと思っています。

Fujiya Hotel

富士屋ホテル外観。古くから外国人の観光客を迎え入れ、英語表記もあるので、Haruki Murakamiファンも来やすいのではないでしょうか。

 

富士屋ホテルのある宮ノ下は、1978年の同ホテルの開業で温泉リゾート地として発展してきた標高346メートルの町。「僕」のように車でなくとも箱根登山電車で行くことができます。宮ノ下の3つ先の駅の強羅は標高541メートルとなりケーブルカーに変わるので、手前の宮ノ下は気軽に旅情を楽しめるエリアです。

 

ダンス・ダンス・ダンス(上) (講談社文庫)

ダンス・ダンス・ダンス(上) (講談社文庫)

ダンス・ダンス・ダンス(下) (講談社文庫)

ダンス・ダンス・ダンス(下) (講談社文庫)

 

<公式サイト>富士屋ホテル (ベストレート宣言) 箱根・宮ノ下のクラシックホテル | 温泉 宿泊 ランチ

 

富士屋ホテル仙石ゴルフコース

 

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胡麻豆腐(水上勉『土を喰う日々 ー わが精進の十二カ月 ー 』)

どういうわけか、和尚さんは、ぼくに胡麻の皮をむけ、といった。そんなことをいわれてあんな小さな粒の皮などむけるものかと先ずびっくりしたが、目の前で和尚さんがやってみせる胡麻の皮むきに参ってしまった。(水上勉『土を喰う日々 ー わが精進の十二カ月 ー 』の「八月の章」より)

胡麻豆腐(水上勉『土を喰う日々 ー わが精進の十二カ月 ー 』)

黒胡麻の豆腐。キューブ型にカットすると、箸が葛の弾力に狼狽することなく一口できれいに食べやすく、箸休めにもなります。

 

執筆の仕事場である軽井沢の敷地内で収穫した野菜や山菜を食べる日々をつづった水上勉(1919-2004)のエッセイから。1月から12月まで、それぞれの旬を味で感じるいわば料理書で、作り方も丁寧に書かれています。

スーパーマーケットでも最近は朝獲れ野菜が売っていたりしますが、調理法はどうでしょうか。水上さんのは少し次元が違います。
この「八月の章」のように、胡麻の皮を剥くことから下ごしらえがはじまったりと、人の生活の知恵や、獲れる作物への感謝に根ざした滋味と工夫にあふれた素朴な料理ばかりなのです。
子供の頃、水上さんは寺で小僧をしていらしたので、そこで学んだ精進料理のエッセンスがちりばめられているというわけです。


「八月の章」は豆腐が紹介されています。奴豆腐、湯やっこ、胡麻豆腐、落花生豆腐、擬製豆腐、淡雪豆腐など。
読みながら、風味や歯ざわりが想像され、つばがたまるほどおいしそうな料理の数々ですが、私は修業が足りず真似できないので買ってきました。歳を取ってからの楽しみに、いつか作ってみたいです。ご興味のある方はぜひ本を手にとられてみてください。

胡麻豆腐(水上勉『土を喰う日々 ー わが精進の十二カ月 ー 』)

おおまかですが、胡麻の皮むき→すりつぶす→裏ごし→葛と混ぜる→とろ火にかけてかためる という工程を水上さんは丁寧にされています。私は手づくりは断念して日本橋高島屋の明治屋で購入。

 

土を喰う日々―わが精進十二ヵ月 (新潮文庫)

土を喰う日々―わが精進十二ヵ月 (新潮文庫)

羽二重団子(夏目漱石『吾輩は猫である』)

“行きませう。上野にしますか。芋坂へ行って團子を食いましょうか。先生あすこの團子を食ったことがありますか。奥さん一辺行って食って御覧。柔らかくて安いです。”(夏目漱石『吾輩は猫である』より)

羽二重団子

手前が焼団子、奥が餡団子(こし餡)です。焼団子はみたらしではなく、生醤油。甘いものが苦手な方もイケそう。やわらかい。

 

夏目漱石(1867-1916)の処女小説から。漱石の友人でもある俳人の正岡子規をはじめ、田山花袋、泉教鏡花、司馬遼太郎など、多くの小説に登場しているおだんごです。

谷中から東日暮里まで通じる芋坂(いもざか)は現在でもあり、芋坂の団子とは1819年創業の羽二重団子のこと「はぶたえだんご」と読みます。お店のホームページを見ると、創業当時は藤の木茶屋と言われていたのが、やがて名物の団子の名前が屋号になったようです。

ちなみに、芋坂の由来ははっきりしていません。

 

羽二重団子

お土産は1本 ¥270 税込 からでも。上記のような折り詰は2本からで¥567 税込。

 

約200年前から同じ場所で営業を続けている羽二重団子ですが、その創業の地は改築中のため2019年まで休業。現在、JR西日暮里駅構内のキオスクと日暮里駅前の少しモダンな外観のお店で購入できます。このお店にはイートインコーナーがあり、定番のおだんごをはじめ、おだんごとサラダがセットになった少し独特なランチや、今の季節にもってこいのかき氷も楽しめます。

あずき羹、ぜんざいなど日持ちのする菓子は公式通販もあります。

 

吾輩は猫である (宝島社文庫)

吾輩は猫である (宝島社文庫)

www.habutae.jp

ルコント(色川武大『甘くない恋人たち』)

“街で買えるケーキでは、ホテルオークラのものが、やはりよかった。これは定説のようになっているから私が記すまでもない。このオークラ出身のフランス人の菓子職人が六本木に出した“ルコント”といったかな、ここもオークラ風だ。”(色川武大『喰いたい放題』の「甘くない恋人たち」より)

ルコントのお店正面

広尾駅から徒歩2分という好立地の「ルコント」。1968年に六本木で創業した日本初のフランス菓子店なのだそう。2010年の閉店を経て2013年に再オープン。広尾を本店に、日本橋三越店、銀座店、加えて、遠方のかたにうれしいオンラインショップの計4店舗展開。

 

ギャンブル小説で有名な色川武大(1929-1989)のエッセイから。読みは「いろかわ たけひろ」です。代表作に直木賞受賞作『離婚』がありますが、今なお一般的に知られるのは、阿佐田哲也(あさだ てつや)のペンネームで発表し映画化もされた『麻雀放浪記』あたりではないでしょうか。色川さん自身、プロ雀士のような麻雀の腕前を持っていた方で、人生の一時期ずっと、卓を囲み徹マンを共にした吉行淳之介も『色川武大追悼』のエッセイの中で、彼の麻雀の才能について触れています。ちなみに、阿左田哲也とは“朝だ徹夜”に由来するそう。

 

そんな色川さんの『喰いたい放題』というエッセイは、豪快な食への執着がみなぎる快作で、冷やしワンタンといった庶民の味から、高級スーパーマーケット、食材へのこだわりやエピソードが綴られています。

たとえば、海老はプツンとして歯ざわりが良く、天ぷらは美味だが天丼ではできれば抜きでほしいといった好みから、イギリスではじゃがいもは貧乏人の食べ物だからフレンチフライやらジャーマンポテトやら、他国の名物のごとく名をつけて食すといった小話など。


強い執着を感じる一節としては、まどろんでは起きるごとにふと浮かんだ食べたいものを書き出して、その変遷、こってりに傾いたりあっさりに傾いたりに唸る描写なんかがあったりします。

 

エッセイには店舗名や場所までよく記してあるのですが、色川さんに突如、睡魔に襲われる持病があったことも関係しているようで、備忘録をかねていたのかもしれません。この病気はナルコプレシーと言われ、日中において場所や状況を選ばず起こる強い眠気の発作を主な症状とする脳疾患(睡眠障害)だそう。

ナルコレプシー - Wikipedia

どれだけ大変な症状だったかというと、まとまった睡眠もできないそうで、本作でも“昼夜べったり起きている、というか、昼夜べったり居眠りをしている”という症状を訴えていて、対談に遅れまいとうんと早く自宅を出て山手線に乗るも、目的駅を通り過ぎては戻り、通り過ぎては戻りを繰り返して、大遅刻してしまったエピソードを紹介しています(終電で終点まで行っちゃった、というサラリーマンあるある程度は比べたらかわいいものです)

 

いずれにせよ、よもや後世の読者が、こだわりの味覚を追体験できる手がかりにするとは、思ってもいなかったかもしれません。

 

ルコントの看板

ナショナル麻布を背にして歩くと見えるこの看板が目印。

 

シンプルな包装

シンプルな包装。

 

スイーツ3種

左から、マドレーヌ ¥230、フルーツケーキカット ¥300、フリアン ¥230 すべて税抜

 

フルーツケーキ

ルコントの代名詞であるフルーツケーキは、ラム酒に漬け込んだドライフルーツがビターな味で、お酒の香りが鼻を抜けます。生地はしっとり。 こういうケーキが美味しいって、大人の特権です。
砂糖抜きのストレートのコーヒーや紅茶、はたまたウイスキーにも合いそうです 。

 

ショップカード

ショップカード。インスタやってるみたいです。老舗でも今風です。

 

喰いたい放題 (光文社文庫)

 喰いたい放題 (集英社文庫)

新装版 離婚 (文春文庫)

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麻雀放浪記〈1〉青春篇 (文春文庫)

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麻雀放浪記 : 1 (アクションコミックス)

麻雀放浪記(一) 青春編 (角川文庫)

麻雀放浪記  ブルーレイ [Blu-ray]

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