フィッシュ・アンド・チップス(玉村豊男『てんぷらの分類学』)
“東欧の例のほかにもうひとつつけ加えるならば、イギリスのフィッシュ・アンド・チップスというのがある。
これは町なかの屋台店のようなところで、店先で揚げたてのを紙にくるんでもらって立ち食いするスナックでもあれが、安食堂のメニューにもよくのぼるし家庭でもつくる、白身肴の切り身のてんぷらに、チップス ー フレンチ・フライド・ポテトのことを英国人はこう呼ぶ ー を添えたものだ。”(玉村豊男「てんぷらの分類学」の『料理の四面体』より)
フィッシュ・アンド・チップスが日本ではまだ珍しかったことが紹介する文章から伺えます。
玉村豊男(1945-)のエッセイから。最初から最後まで料理について語られていますが、実践的な調理本でも、美味しいものを紹介するのとも違って、“一般的原理”を探るちょっと変わった本です。
ひょっとしたら、エッセイストの姿よりは、約10年前まで生放送されていた毎週土曜日のTBSの夜のワイドショー番組『ブロードキャスター』のゲストコメンテーターとしての玉村さんのほうが馴染みがあるかもしれません。
あるいは、軽井沢あたりの旅行で足を少し延ばした経験のある方にとっては、信州で玉村さんが経営するワイナリー、ヴィラデストガーデンファームアンドワイナリーのオーナーとしての顔かもしれません。
玉村さんは海外経験が豊富でパリには留学されたご経験があり、日本の大学でも仏文科を卒業されています。その後は通訳や翻訳業を経て、エッセイストになられました。
そんな彼のエッセイは、ヨーロッパの流儀が紹介されたものが数多くあり、海外旅行が高嶺の花だった時代ですから、読者は心躍らせて読んだことと想像されます。
私自身も、大学時代にフランス留学した際には手引書として読みふけりました。さっそく現地のカフェへ行って、たばこを吸った後に吸い殻の入った灰皿を裏返しにしてみたりして。これは確か、お会計をするときのギャルソンへの合図だったと記憶しています。
もっとも、玉村さんが留学していたのは1968年頃で、私が留学したのは2000年です。そのような習慣はすでになくなっていたようで、無意味にテーブルを汚しただけの客となり、バツの悪い思いをしました。